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小説5巻より

カティ・マネキンに向かってそう尋ねた。
 画面の中の上官が、凛とした声で答えを返す。
『やつらは、腐敗したアロウズを叩いた功労者ではある。だが、武力放棄をしない限り、現政権を脅かす危険な存在であることは変わりない。やつらに動きがあれば、我々も即動くぞ』
「はっ」
 画面に向かって敬礼し、携帯端末を閉じる。あまり長話をしては上官の晴れの日に申し訳ないとの心遣いもあった。 閉じた携帯端末を制服のポケットにしまい、抜けるような青空を見上げる。
 中東はスイール王国、その被災地の上に広がる青空だった。アンドレイは、アロウズが解体されたのち、地球連邦軍へと籍を移した。
 悪魔の所業のごとき、と報道機関から攻撃を受け続けているアロウズの元隊員となれば、連邦軍人たちから冷遇されることは目に見えており、そして、事実そうであった。
 アロウズの罪は作戦を立案・命令した司令官および上層部と、その横暴を許した旧地球連邦政府にある、という公式見解が発表され、アンドレイも処罰や降格などを受けることはなかった。
 だが、いまのところ彼に向けられる白眼視が消える気配は――最初の頃に比べれば弱くはなっているのだが――まだ訪れていない。

 大学院時代の知人が人生の行路に幸福の里標を立て、生涯の伴侶を得た頃、元アロウズの技術士官ビリー・カタギリは、地球連邦軍技術開発部の施設にあてがわれた彼個人の研究室で、キーボードの上に載せた指を一定のリズムで動かしていた。
 もしかすると、アロウズ解体後、もっともその去就で辛酸をなめたのが彼かもしれない。
 叔父がアロウズの司令官で、カタギリ自身もモビルスーツ開発主任としてアロウズに参加していたのである。
 彼を取り巻く偏見のレンズも、厚く、色濃くなろうというものであった。
 それでも彼は、地球連邦軍に籍を置くことを決めた。
 カタギリ本人がモビルスーツの研究と開発に従事することを望んだためでもあるし、また地球連邦軍としても、アロウズのモビルスーツ開発主任まで務めた有為の人材を、民間や他分野へ渡してしまうことを惜しんだためでもある。
 しかし、彼の所属することになった地球連邦軍技術開発部は困惑の極みであった。
 正直に言えば、持てあましたのだ。
 結果、さまざまな思惑から、彼は個人の研究室を与えられたのだが、その場所は技術開発部の研究棟の中でも、ほとんど人通りのない辺境とも呼べるような部屋であった。
 カタギリは、その処遇に不満を抱かなかった。
 むしろ研究に集中、没頭できると喜んでいる。
 何より、背中に投げつけられる種々雑多な視線にわずらわされなくていい。
 その視線の要因のひとつである彼の叔父、アロウズ司令官ホーマー・カタギリは自殺した。
 ハワイにある私邸の畳の上で、アロウズのすべての罪を背負うように、割腹自殺を遂げたのだ。
 カタギリは、叔父を否定するようなことを一言たりとも口にしたことはなかった。
 叔父が、恒久和平を願っていたことを知っている。
 たとえその方法が強引に過ぎ、間違っていたとしても、叔父はその信念に生き、その信念に死んだのだ。
--------------
ホーマーの葬儀は身内だけで、世間の目をはばかるように、しめやかに行われた。
 カタギリは親類に下手な外聞が及ぶことをいとって出席しなかった。
 それはそれで、また別種の非難を浴びることになったのだが。
 カタギリが疎遠になった人間関係をいいことに、僻地の研究室で熱心に解析を試みているのは、イノベイターの母艦から持ち出したモビルスーツのデータだった。
 デスクの上にある3Dモニターには、ガガのグラフィックが映し出されている。
 イノベイターの長、リボンズ・アルマークは、アニュー・リターナーからもたらされたデータによって、ラグランジュ2での決戦以前に、より完成度の高い疑似GNドライヴを造りあげていた。
 レイフ・エイフマン教授の研究データを基に、疑似GNドライヴでのトランザムシステムを実現させたカタギリであったが、リボンズが用いた技術については未知であり、興味はつきない。
 飽きることもなかった。
 結局のところ、彼は学究の徒であるのだ。
 ふとキーボードの上を走っていたカタギリの指がとまり、モニターの横に置いてあった写真立てを持ち上げた。
 そこに収められているのは――あの戦闘のあと、ソレスタルビーイングの母艦内で撮られたカタギリとクジョウの写る一枚。
 カタギリから撮影を持ちかけたわけではない。
 クジョウが彼を慮ってか、同僚に頼んで撮影してもらったのである。
 彼はそのデータを受け取り、プリントアウトして写真立てに収めたのだ。
 ソレスタルビーイングの一員と肩を並べている写真など、人の多い研究室では、とてもではないが飾ることなどできない。
 これは僻地である研究室を承諾した彼への、ささやかなご褒美かもしれなかった。
 彼が写真立てをデスクに戻したとき、かすかな足音が彼の耳に届いた。
 だが、その足音は止まり、どうやら開きっぱなしの部屋の入り口でたたずんでいる。
 カタギリは、顔をほころばせた。
 入り口にたたずむ彼の姿が、写真立てのガラスに映り込んでいたからだ。
 ユニオン軍時代からの親友。
 元オーバーフラッグス隊の隊長。
 武人めいた面具を被っていた、あの――。
 ……さて、何て声をかけようか。
 久々に彼は研究のこと以外に頭を使った。
 それは彼にとって愉快な経験だった。
 ――よかった、生きていたんだね。
 ……違うな。
 ――きみがそんなシャイな性格だとは知らなかったよ。
 ……これも違うな。
 まあ、とりあえずは平凡で凡庸な言葉でもいいだろう。
 話したいこと、聞きたいことは山ほどあるのだから。
 その入り口である第一声は、さして重要ではない。
 だから彼は、予告もなく無造作に椅子の座面を回転させて親友に振り返った。
「やあ、久しぶりだね――」

テーマ : 機動戦士ガンダムOO
ジャンル : アニメ・コミック

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Author:rikko83
今、ガンダム00が気になる存在になってしまいました。
グラハム・エーカー幸福至上主義
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